渇き。




鬼才中島哲也監督最新作。
低迷する日本映画界と言われる昨今、果たしてそれは作り手の能力やセンスの低下でしょうか?
寧ろ技術は進み、新しい事も良い意味の古臭さも踏襲され益々映画は面白くなっている、その可能性に満ち溢れていると思います。
では、何故そう嘆かれるのでしょうか?
それは、作り手ではなく受け手が真に映画と向き合っていないからだと感じます。
映画は、時代を内包したあらゆる表現方法の終着駅だと僕は思います。
どのような映画を求めるか、それをどう評価するかの受け手の才の欠落がこの空気を作り出している気がしてなりません。

僕個人の意見ですが、
最近の映画は作り手(監督・企画)の才能が無いから面白い映画が無い
ではなく、
最近の映画は受け手(時代・風潮)の才能が無いからそれに応じた映画を作らなければお客が入らないとなってしまっている。

なので、面白い映画や闘っている映画には興業がヒットしてもらわなければならない。
だからこそ、賛否両論と謳われる『渇き。』を是非劇場まで足を運んでもらって、しっかりと吟味して欲しいと思います。

前置きはこのくらいで、
『渇き。』を観てきました。

本作は「このミス」で大賞受賞した小説の映画化。
はっきりと、挑戦したなと思う。


前作の『告白』との二部作とも取れる
内容で、
余りにも早いカット割り、インサートカットやフラッシュカットの多用が過去作から更に増していた。
話だけを取り出せば暗い陰湿の映画であるが、
ポップなテンポとウエスタン風のテロップなどでエンタメ作品に仕上がっていた。
特に、
画作りを際立たせる散りばめられた音楽とクローズアップ主体の撮影とそのライティング。
音楽はテンポに合わせ、細かく編集されながら、今までに無いほどの長尺を激しく移る映像に見事にはめ込んでいた。
撮影は寄りの映像、顔のアップの連続で臨場感と緊張感をいっぺんに味わえたし、そのことで損なわれる背景が無いことでストーリーの理解度が低下してしまうところを、場面ごと、時代ごとで微妙に変化を付けながらも一体性があるライティングが補うという素晴らしいプロの仕事でした。

そして世間的には新生のごとく現れた小松菜奈の起用と取り巻く役者達。
彼女は中心に居ながら存在しない。
一種、マクガフィンのような物。
その彼女を、美しく高貴な真っ直ぐなものとしながら周りが狂っていく。
その様が、リアルなど一切ない演劇のような過剰すぎる演出がヒロインの存在を際立たさる。
居るんだけど居ない、悪魔のような天使、狂っているけど愛おしい、そう思わせてくれる。

故の歪んだ到達点であり公約数が
「愛してる」と「ぶっ殺す」の呼応なんだと思う。

物語は、
現代と三年前が複雑に展開される。
カットバックでタイムスリップや感情変化でフラッシュバックもする。
そして、
悲しき狂気の象徴
「藤島(役所広司)」が過去の償いのもと加奈子を探しに遡る物語と
歓びの狂気の象徴
「ボク(清水尋也」が美しい愛を求め加奈子に思いを馳せ時間を追う物語がリンクするためさらにゲシュタルト崩壊のような複雑性を増す。
テンポが早いだけに物凄い情報を与えられる。

その中で、この物語の真の意味を観客に丸投げするように終息に向かうため、オチと関係性の希薄さは停滞を生んだ気がしてしまったのは残念でした。

橋本愛からは魂の叫びを感じたし、
國村隼の一つ一つのセリフや振る舞いが伏線になっているところは今じわじわと凄みを感じる。
そして、息抜きのように存在していた妻夫木聡の演技が、役所広司との対比で渇望の象徴になっている感じが、全体の凄みをさらに高めている。
また、
小道具やセットのディテールの配慮が
暴力と血=愛という構造をより誠実に感じさせる。

見つかりもしない、ありもしない雪の中に希望を見出すラスト、
「あいつは生きている、あいつは俺だ。見つけて、ちゃんとぶっ殺す」
はあまりにも切ない叫び。
「渇き」を潤す唯一、それはやはり愛。
 
物語はこれからも続くだろう。
少し、意味を含ませ過ぎた、狙いをダサく感じてしまう部分はあるけれど、
地続きの心の「渇き」に「。」が終止符を打ったのだろうか。
僕はそれをエンディングの
「Everybody Loves Somebody」がこの混沌に決着を付けてくれた気がした。

ただ一つ、これだけは、これだけは吐き出したい。悔しいから。
全編を通して抱いてしまう、もやもや、腑に落ちないところは、
観客が頭の中で膨らませるであろう余白、つまり感想を明らかに強要していたということ。
お前らこういうの好きだろ?
鬱屈とした日々送ってるんだろ?
お洒落なこの感じ、これ欲しいんだろ?
って具合に。
舐めらたよね、僕ら。
それは絶対に違う。
狙いかもしれないが、インサートに逃げたようなカット。
無駄なカットなんて一つもないんだ。
そういうの、意外とこっちは感じますよ?って大合唱したい気持ちを胸にしまい、良くわからない感情と共に劇場を後にした。


2014/中島哲也/★★☆☆☆☆