グランド・ブタペスト・ホテル



ウェス・アンダーソンの箱庭的、対称に捉える固定演出、色彩豊かな画作りで早いテンポのポップな喜劇は健在だが、
その希望と笑いに満ちた物語の裏に絶望と葛藤があった。
息苦しさ。僕は全く笑えず辛かった。それは、真正面に時代を捉えていたからだ。

語り部の変化と多重的心理描写が物語の核心をつく。
地面の下でもがく人生を映すかの構造で、列車のシーンは象徴的だ。
紳士的な主人公はシュテファン・ツヴァイク。
ウェスから彼への敬意の念の映画だと言っても良い。

「今は昨日の世界」だと。

現在に観る30年代、ナチのユダヤ迫害時代だ。
僕は文面でしか分からないが、一つの描写を取ってもその皮肉があった気さえしてくる。
それでも、チャップリン映画を彷彿とさせるユーモアがあった。
ウェスのテイストで描いたことに最大の意義を感じた。

お菓子のような世界から飛び込んでくるラストシーンの重み、哀愁のカット。素晴らしかった。
ノスタルジーのスタンダード比。
時代ごとにサイズを変えるのも良かった。
様々な映画からインスパイアされたであろうホテルの作り込み。

是非劇場でご確認を!

2014/ウェス・アンダーソン/★★★★☆☆