愛の渦



人気劇作家でポツドール主宰の三浦大輔が、第50回岸田國士戯曲賞を受賞した伝説の舞台「愛の渦」の映画化。
映像にするにあたり脚本を書き直し、舞台とは違う映画『愛の渦』の滑稽で剥き出しの性欲が渦巻く。

内容だけにR18に指定されているが、欲望と移りゆく人間関係はどの世代にも当てはまる。
故に、それ以下の世代が観ても全然有りだと思ったし、それこそ映画の恐怖体験、トラウマ体験だとも思う。
うっかりつけたTV番組がとんでもない事になっていて、その時は怖くてたまらないのに、いつしか成長した時に残像して映像の記憶が蘇り、自分の何かしらの血となっているような。

キャッチコピーになっている、
「着衣時間が全編中たった18分半。」
舞台では描かれなかったプレイルームをどのように映画として表現しているか観る前からワクワクしていた。
それは、男としての性の部分というよりは、カメラにどう収まるかということ。

もちろん最大の見所は、性欲。
多種多様な世代、職業、性格、人間の卑怯さやいやらしさが交錯する男女の異種格闘技戦を生中継で観ているようなドキュメント性をもつエンターテイメント。
それゆえに、優越感と劣等感がじわじわと浮き彫りになり、初対面で会話すら生まれなかった冒頭から一転、
一度身体を交えると一気に状況は変わる。
会話が生まれ、少しずつ本性が顕在化していく。
そして、二度、三度と性交渉があるたびにたった数時間なはずなのに、喧嘩が起こり、乱交パーティーなはずなのに相手を選び出す。
このいやらしい人間の本性、性欲の性こそがリアリティを孕む愛の渦の魅力なのだろう。

着衣していないのが基本だから、観客は一種の錯覚を覚える。
服を脱ぐという行為で、表面的にはさらけ出されるのは身体。
だがしかし、実は服を着ることは身体よりも心の部分、性格や本性を纏い隠している。
これに気づくのはラスト直前の全員が集まるシーン。
服を着て登場する8人に戸惑った。
2時間観ていたはずなのに、こいつらは誰なんだと違和感すら覚える。
それくらい、剥き出しにされた彼らに没入していたのかもしれない。
このシーンのふと流れているTVの占いの声、彼らを暗示しているような演出で1人クスクスと僕は笑っていた。

注目していた、どう映像化するかという点で、この作品は特質していて素晴らしい。
天井を回るシーンを筆頭にアングルがとても良かった。その視点は人物の視線に乗り移り感情と笑いが呼応し、スクリーンと観客が一体となる。閉鎖的展開を幾つもの波を生み出し止まらない。
場面のほとんどを一室で過ごすから多少の中だるみや飽きを感じてしまう部分はあったがほとんど気にならなかった。
豪華共演となった役者陣。
池松君は、何か隠し持ったような独特なテンポは今回も光っていて益々注目ですし、
喘ぎ声を密かに練習していたという門脇麦は、映画冒頭から徐々に成長していくセルフドキュメントのようで観ていて気持ちよかった。
あんな人こんなところこないだろうなーとずっと思いながらも、秘めた性欲にただただビックリした。
特に良かったのは駒木根隆介の演技が素晴らしかった。
なんとも言えないあの不甲斐ない感じ。これは対照的に、あんなやついるよなーとずっと思っていた。
また童貞というのがツボで、彼も回数を重ねるにつれ成長していく過程は笑いの要素を一役かっていた。

バランスとタイミングが噛み合った作品。

冒頭のタイトルインまでが圧巻でとにかく素晴らしい。
過去の作品を観ても、あそこまでよく出来たタイトルインはなかなか思い出せない。
音楽とともに一気に感情は加速し、ラストの目線、彼女は2時間何を観ていたのか。
それは、個々の本性のままに。

2014/三浦大輔/★★★★☆☆