大人ドロップ



見事な学園生活のリアリティと映画的空想演出の均衡が、逆の思春期の不安定な感情を映し出す。原作の表現や引用範囲は分からないが、テンポの良い掛け合いと台詞回しが絶妙で、思いを馳せる回想の青春、これから追い掛ける青春、観客個々の思い出が幾通りもの青春映画を創り上げる。

ただの青春映画ではない青春映画。学生の縮図と男女関係と友情を小さく描くことで単純な群像劇にしない。挿入されるモノローグが観客の心を代弁し、意図しないところで感情の揺らぎに気付く。池松壮亮が青春そのもので、前野朋哉が人生そのものだ。彼の相棒役のハマり具合はピカイチ。

思いを寄せる女の子を追い旅に出るあの言語化が難しい表現の描写、山を駆ける場面、アパートの二部屋を映すフィックスのカメラなどのシーンの切り取り方、特に電車のシーンは拘ったであろう上手さがあった。「息子」が流れた時は感服した。グッときた。

タイトルにあるドロップが物語を動かし、重要なアイテムとして展開していく。ラストのカタルシスは感情を移ろいを体感した観客にしか分からない、ジワジワくるラスト。挿入歌、テーマ曲共に黒猫チェルシーが担当しているが、いつになったら渡辺大地の高校生役に違和感を覚えるのか。

注目の池松壮亮、存在感が一層増す橋本愛、相棒役なら彼の前野朋哉、演技は初見ながら小林涼子なしにはこの映画は語れない。今年こんな日本映画を観られるとは思っていなかった。日本映画だからこそ出来る素晴らしいモヤモヤの青春。

観やすいはずです。もしかしたら回顧録に泣けるかもしれない。笑い、楽しさ、感動、泣き、今の映画にはありふれた言葉だけど、こんなに体現している邦画は少ない。皆さんも劇場で観て盛り上げて欲しいです。予告やあらすじを観ないで行くことをお勧めします。是非!

2014/飯塚健/★★★★☆☆