そこのみにて光輝く



ぬめっとした空気が、スクリーンを通して伝わってくる。
重い題材を、テンポ、音楽によってそう感じさせない。
一つ一つが丁寧で、陰湿な部屋の温度が手に取る様に、
美味しそうな食事が生活を物語る様に、
浴びる水や海波が、そして光が息吹の様に。
映画が観客に寄り添っていた。

俳優陣の演技、その場にまさに生きているかのようで美しかった。
池脇千鶴の振り向き際や捉えどころの無い表情、
高橋和也の醜さや逸らすような素振り、
菅田将暉は汚い歯がよく似合う。彼の変化は自在で魅了する。
数年後、もっと化けているだろうと期待してしまう。

綾野剛の出演は少なかったが、確かに存在感していた。
セックスシーンの照明の当て方、そこに向かう姿勢が真摯的で感服。
兎に角、映画は函館にあったし、その映画は確かに観客の心に届いていた。菅田将暉の去り際は彼が残した証。
愛に溢れた今年を代表する邦画だった。

台詞やモノローグではなく、表情や情景だけで映画は成立するということを体現していた。
語らないことが、語ることを上回ると教えてくれた。
その人にとって何か大切なものを再認識させてくれる傑作。
人生は繰り返しの中にあって、ふとした瞬間に幸福があると感じた二時間でした。

2014/呉美保/★★★★☆☆