her 世界でひとつの彼女




ほんの少しだけ未来の世界だから、この出逢いは優しい光に包まれる愛のかたち。

この映画が素晴らしいのは、相手不在だからこそ成立するということ。
プログラムの結集であり、肉体が存在しない。
ひとりで語られる恋愛模様。
どこか感じる違和感…。

ファーストシーンで、セオドアは何か違和感のある愛の言葉を語る。
印刷と同時にこれは近未来なんだと思える。
セオドアは手紙の代筆という少し古臭いが素敵な職業に就ている。
誰からも評価され賞賛される彼の手紙。
それでも、彼はキャサリンにサマンサを否定され
「ただの手紙、単なる人の手紙」
と自分のどうしようもない気持ちを嘆きます。
こんなもの、と彼は分からなくなってしまう。

セオドアはサマンサに愛を求めながら、元妻のキャサリンを引きずり、エイミーを拠り所にしている。
サマンサとは肉体があることの差で衝突し、キャサリンとは愛のかたちで衝突する。
けれど、エイミーだけはセオドアをいつも理解してくれている。
あなたがいいなら、それがいいのと。
これはラストに繋がるシーンだったのかと今は思います。

サマンサが自分のものだけでなく、皆のサマンサだと知ったセオドア。
それは時代の進化に於いて必然でした。
サマンサは、
「進化するにつれて、どうしようもなかったの。心は四角い箱じゃない、ふくらんでしまったの。
そして、
「わたしはあなたのもので、みんなのもの。だけど、あなたの愛は変わらない」とセオドアに打ち明ける。

OSの切なさと限界が見えたシーンでした。

最後に、
「私は、無限の空間、抽象の世界にいる。どんなに望んでも、あなたのそばでは住めないの。でもね、あなたがこちらを覗いたら、私を探して。私は愛を知ったの」

こんなことを言って彼女は去りました。


肉体をなくして語られない愛をどうやって表現するか。
この映画はそれをまさに体現した。

好きなシーンは沢山ある。

ひとつ挙げるならば
性の混じり合いを、
少しずつブラックアウトし、彼らの潜在意識の中で体感する。
あのシーンはたまらない究極の愛に思えた。
ああ、代理セックスのシーンも良かったなあ。

スカーレットヨハンソンの息遣い、
光を計算された撮影術、
近未来を表現するための美術、
文句無しの音楽、
どれもどれも美しかった。

ホアキンの衣装が何処と無くノスタルジーで、ハイウエストのズボラパンツに彼はいつもシャツを着る。
そのシャツの色が彼の心情描写をしている気がして一瞬一瞬の彼の表情に胸打たれた。


僕らが、(A.I・愛)を通してふれた世界は、悲しみにくれた過去を想い、見えない未来に希望を信じた、誰もが主観的に重ねてしまうほどリアルな人間性に満ちている。

求めた暗闇のあなた。
勇気を出して引き伸ばした心(容量)は二人で一歩ずつ歩み、寄り添いながら膨らんだ愛は最大の愛(アップグレード)に到達する。
その先に待っていたのはそれぞれの道。人間はどんなに時代が変化しても変わらないものがある。
それは唯一「愛」だ。
教えてくれたのは皮肉にも愛したOSでした。
インストール・アンインストールの内側で、
時代のシステムの進化の表面で彼女は消えてしまった。
避けては通れない別れだった。

絶対なものなんて無い。
そんなものは絶対無い。
映画は「絶対の愛」を紡いだ僕らの物語でした。

2013/スパイク・ジョーンズ/★★★★☆☆